本音のコラム

■ 遺骨収集 2005年05月28日(土) 
東京裁判を否定し「A級戦犯は罪人ではない」などと息巻いている森岡正宏自民党衆院 議員だが、つまるところ首相の靖国参拝は何ら問題はない、と援護射撃していることになる。野党はここぞとばかり厚生労働政務官という要職にある森岡氏の発言を批判し罷免を求めている。小泉首相は 「議員個人としての発言ですからね。あまり取り上げない方がいい」と例によって日和っている。
 ところで、フィリピン・ミンダナオ島での旧日本兵二人の生存情報には驚かされた。日本兵約1万2千人のうち無事、復員できたのは約3千人。フィリピンだけでも約1千人の残留旧日本兵がいるという。東南アジアの各地には遺骨収集もされないままの"英霊"が数え切れないほどさまよっていることだろう。本コラムでも書いたが私の妻の父親もニューギニアで自決による戦死をしている。83歳になる妻の母親は「もしかしたら正美さんもどこかで生きているかも知れないわね。会えたら好きなニンジン入りの料理をつくってあげたい」と夫の名前を出して涙ながらに語った。
 靖国参拝の是非もいいけれど生存者救出と遺骨収集が先決じゃないのだろうか、小泉さん!

(東京新聞「本音のコラム」5月29日(日))


■ 「ジャパンポンチ」創刊! 2005年05月22日(日) 
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 ついに出ましたパロディー専門雑誌!その名も「ジャパンポンチ」(ビジネス社)。『時代を撃つ「笑いとパロディー」の紙つぶて』と書かれていて、さらに[しぶめの大人の第1巻]とある。   
実は私はこの雑誌の編集顧問というかたちで深く関与している。パロディー大好き人間の編集長Oさんから「マッドさんのパロディーを巻頭に持ってきて、さらに14ページのパロディー特区を実現させますから、ぜひとも他にない辛口の作品を作ってください」と嬉しいムチが入ったこともあって、いつになく気合いを入れて作ることになった。とくに「ホリエモン100万円札」は自分でも気に入っている作品だ。「空母の滑走路に巨大マグロ」はいささかグロテスクだが回転寿司ファンには笑えるものだと思う。私は何を隠そう世間的にはあまりありがたくない"被告"の体験者なのだが、34年前に"盗作"の疑いで山岳写真家から法に訴えられ16年間も争った。この写真著作権裁判、俗に言う「パロディー裁判」のてんまつについて連載を始めた。
 『植草一秀が初めて語る「手鏡事件」全真相!』という30ページからの特集も読み応えがある。この事件は明らかに、権力によって、ある意図をもって仕掛けられた"えん罪事件"ではないかと私は疑っている。

(東京新聞「本音のコラム」5月22日(日))
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季刊「ジャパンポンチ」の主な内容

★マッド・アマノのパロディー「ポンチ写真ニュース」(巻頭カラー4ページ)
★ポンチ生半可帖
★人物図絵
★特集 植草一秀氏が初めて語る「手鏡事件という迷宮」全真相!
★渾身特集 謎と疑惑の「NHK改変番組」を誌上で完全再現!
★豪華執筆陣 清水義範 別役実 安倍譲二 他
★つかこうへい「熱海殺人事件 平壌から来た女刑事」
★マッド・アマノのPARODY TIMES(巻末から14ページ)

定価 本体1000円+税 年4回発行

問い合わせ ビジネス社 TEL 03-5444-4761
http://www.business-sha.co.jp


■ ルーズベルト賛歌? 2005年05月15日(日) 
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 日清戦争が終わるやいなや米国は日本を仮想敵国とした対日戦略プログラム「オレンジ計画」を策定していた。その後、第二次世界大戦への参戦に否定的だった当時の米国世論を戦争支持に変えるため、ルーズベルト大統領が日本を挑発する政策をとった。これは歴史的に観て果たして正当と言えるのだろうか。「マンハッタン計画」を推進し原爆投下へと進んだことへの戦争責任はどうなんだ?
 この4月中旬から約2週間、私はロサンゼルス郊外の街に滞在した。LIFE誌が第32代米国大統領ルーズベルト(愛称FDR)の死後60年記念として丸ごと一冊、特集をしていたことが気になっている。表紙には「最も大きな影響を与えた米国大統領をテレビが特集」とありFDRの大きな顔写真を掲載している。エリート一家の様子から大統領の座を勝ち取り、ナチス・ドイツが降伏する約1ヶ月前に死去するまでの栄光の記録を紹介している。広告はFDRの特番を組んだテレビ局が独占掲載。広告の見出しには「暗黒に輝く光を与えた」とか「挑戦は不可能に思えた。その言動は超人的だ」などと歯の浮くような賛辞が並ぶ。80ページを越える記事のどこを見てもFDRが原爆開発推進者だったことへの責任追及と反省はない。

(東京新聞「本音のコラム」5月15日)

THE HISTORY CHANNEL(History.com)というテレビ局が4月17日(日)にルーズベルト特集を放送。LIFEの広告を丸ごと買い取り、あたかも番組の宣伝冊子という感じだ。その他、書籍も発売されるなど、明らかにメディアがFDRでひと儲けを企んだ観がするが肝心の米国民の反応はイマイチの印象を受けた。


■ 最後の手紙 2005年05月09日(月) 
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 イラクで戦死した米兵の家族に宛てた最後の手紙を一冊にまとめた本、Last Letters Home (LIFE社)をロサンゼルスの書店で見つけた時、私は思わず私の妻の父親が六十年前、戦地、ニューギニアから妻に宛てた「最後のハガキ」のことを思い出した。生まれて間もない娘の成長ぶりに思いを馳せ、軍から家族手当が出るので取りに行くように、とか南国の気候は朝晩は涼しいくらいだがマラリヤ予防のため蚊帳を吊っている、など一見のどかな内容だ。生還した戦友の話によれば実は極度の食糧不足のためカエルを捕まえて食べるほどまで困窮していたらしい。その後、激しい米軍の侵攻が始まり捕虜になることを拒んで自決した、という。国からは戦死報告の手紙がたった一通届けられただけ。遺骨はない。戦争未亡人となった妻の母親は戦後五十年間、般若心経の写経を続けて亡き夫の御霊を供養した。Last Letters Homeは14人の戦死者の「最後の手紙」の他に入隊時の凛々しい軍服姿と元気だった頃の写真、遺族の写真などでまとめられている。いつの時代も戦争に駆り出された兵士たちは犠牲者でもある。「僕は人殺しのために生まれてきたんじゃない」という言葉が印象に残った。

(東京新聞「本音のコラム」2005年5月8日)

★太平洋戦争当時、戦地、ニューギニアから熊本の妻に届いたハガキ。「軍用郵便」はすべて「検閲」された。
★英文の手紙はLast Letters Homeに紹介された米兵のもの。


■ イラクの新国旗 2005年05月01日(日) 
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 イラクの新しい国旗が不評を買っているらしい。昨年4月、暫定統治機関である統治評議会が旧フセイン政権時代の国旗に代わる、新国旗のデザインを承認し、公共施設に掲げる予定だった。ところが6月、暫定政権関連ビルには新国旗ではなくフセイン政権以前からの汎アラブ主義を象徴する国旗が掲げられていたという。新国旗は白地にイスラムの象徴である水色の三日月の下に、チグリス、ユーフラテス川を象徴する青い2本のライン、そしてその間にクルド人を現す黄色いラインが引かれている。このデザインがアラブ諸国の不倶戴天の敵であるイスラエル国旗を想起させることから、イラク国民の間では評判が悪かった。そもそもフセイン政権下の悪夢を払拭するのが本意だったはず。旧国旗は1963年7月に制定され現在でもイラク人に愛されている。赤、白、黒の3色に緑の3つの星は全て意味がある。赤は「愛国心」または「勇気」、白は「寛大さ」、黒は「イスラムの伝統」を表しフセイン政権時代に足された「アッラーは偉大なり」の文字は削除されている。国旗のみならず、政権や価値観さえも、自分たちのあずかり知らぬところで塗り替えられ屈辱を味わっているイラク人の気持ちをブッシュをはじめ新政権はどこまで理解しているのだろうか。

(東京新聞「本音のコラム」5.1)


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