自ら「糖尿病患者」となり改めて「食と健康」について見つめ直すことになった。同時に「医療のカラクリ」を知ることになり医者任せでは治るものも治らないことに気づく。さてさて、「これで良いんだろうか? 良いはずがない!」と自問自答。医療業界が隠したがる治療効果のある代替治療法や食についての情報を紹介していくことにする。ちなみに私は現在、インスリン注射なしで血糖値(ヘモグロビンA1C)が5.8となり正常値をキープするに至っている。 |
糖質制限は是か否か? | 2010.12.11 |
「主食を抜けば糖尿病は良くなる!」の著者・江部康二(財)高雄病院理事長が「日本人は炭水化物(糖質)を制限してはならない」との説を「米と糖尿病」という本にまとめた佐藤章夫山梨医科大学名誉教授に噛み付いた。実は私は江部理事長の説を信じているので佐藤説には正直、えっ、まさか?とにわかに信じられない思いなのだ。 まずは江部理事長のブログに書かれた反論を紹介する。少し長いが最後まで読んでいただきたい。 (引用、ここから) 「米と糖尿病」を読んで2010年9月 おはようございます。 山梨医科大学名誉教授、佐藤章夫先生が「米と糖尿病」という本を、2010年7月に出版されました。 内容は、基本的に佐藤章夫先生のホームページに記載してあることとほぼ一緒でした。 その中で、「はじめに」 に書いておられることで、かなりの疑問が解けました。 @佐藤先生ご自身が糖尿病である。1989年診断。 A1995年にヒムスワースの論文を発見。 1935年にヒムスワースが発表した、 a)正常人の耐糖能に関する論文 b)糖尿病の疫学の論文。 この2つの論文が、佐藤先生の仮説(高炭水化物食肯定論)の、肝心要な根拠である。 B佐藤先生ご自身の検査データは過去一貫してHbA1c6.5%未満であるが、尿糖陽性の可能性は高い。 @に関して、ご自身が糖尿病なので、薬物に頼らない食事療法に興味を持たれたということで、モチベーションは私と同様ですが、糖質に対する見解が真逆ですね。 私は糖質制限食で、佐藤先生は高糖質食(高炭水化物食)・・・。 これは、私はずっと臨床医で糖尿病患者さんを多数診察していますが、佐藤先生は基礎畑で臨床医ではなく、糖尿病患者さんをほとんど診ておられないという差が大きいと思います。 高雄病院では、1200人以上の糖尿病患者さんに糖質制限食を指導し、顕著な効果を確認しています。入院して糖質制限食を実践され、著明に改善された糖尿病患者さんも400人以上おられて、きっちりデータもあります。 A a)ヒムスワースの正常人の耐糖能に関する論文。1935年発表。 「健康人に糖質の少ない食事を1週間与えて糖負荷試験を行った。高糖質食を与えたときには耐糖能は正常であったのに、低糖質食によって糖尿病と判定されるほどに耐糖能が悪化した。」 というのが、ヒムスワースが1935年に発表した論文の結論です。 一 方、 1960年、ウィルカーソン(Wilkerson)らが、受刑者を被験者として低糖質食が耐糖能に与える影響を再検討して、糖質の摂取量を1日50グラム に制限しても、耐糖能には大きな影響を及ぼさないという報告を行いました。この報告がNew England Journal of Medicineという影響力の大きな医学誌に掲載されました。 佐藤先生は、「ウィルカーソンは間違っている」と、個人的な見解を述べておられますが、欧米の糖尿病の専門家は、ウィルカーソンの報告を支持しています。 New England Journal of Medicineのような、権威ある医学雑誌においては、まず論文が受理されるまでに、担当編集委員による厳しい審査があります。この第一関門だけでも大変な狭き門です。 また、受理されたとしても、論文として掲載されるまでには、さらに厳密な審査が行われます。 複数の専門家(レフリー)によって、論文の内容に間違いがないか、研究方法に問題はないかなどが徹底的に審査されます。 いったん受理されても、レフリーにより掲載不可になることもあるし、大改訂後掲載可というような判定もあります。 この非常に厳しい第二関門を通過して、初めて医学雑誌に論文として掲載されるわけです。 つまり、一流の医学雑誌に掲載された論文には、当該の一流の複数の専門家のお墨付き・保証があるわけです。 (製薬メーカーなどの利権が絡まない論文は、信用していいと思います。) ですから、単なる学会報告で論文になってない研究と、一流医学雑誌に論文が掲載された研究では、信頼度にかなりの差があるわけです。 ましてや、佐藤章夫先生の個人的見解と、ニューイングランド・ジャーナルの審査を行った、複数の欧米の専門家の見識と、どちらが信頼度が高いかは、明らかです。 b)ヒムスワースの糖尿病の疫学の論文。1935年発表。 「脂肪の摂取量の多い国ほど糖尿病死亡率が高く、また炭水化物では、これと対照的に摂取量の多い国ほど糖尿病が少ないという傾向がみられる」 というのがヒムスワースの結論です。 これに対して、日本の糖尿病医療を長くリードされてきた後藤由夫先生☆☆☆が、ヒムスワース(Himsworth)の誤解を明快に指摘しておられます。 <後藤由夫 私の糖尿病50年 −糖尿病医療の歩み−> 43. 糖尿病の増減 http://dm-medical.net/14/000242.php 2. 脂肪摂取と糖尿病 「ロンドンのHimsworth(1935、1949年)は各国の糖尿病の死亡率と国民の栄養素摂取量との関係が図2のように、脂肪の摂取量の多い国ほど糖尿病死亡率が高く、また炭水化物ではこれと対照的に摂取量の多い国ほど糖尿病が少ないという傾向がみられると報告した。この成績をもとにHimsworthは脂肪摂取が糖尿病の増加と関係すると結論した。筆者はこれに興味を抱き、追試して同様な成績を得たが、次に粗死亡率ではなく訂正死亡率について関係を求めた。その結果は図3のように相関関係は認められなかった。このことから、Himsworthがみていたのは脂肪摂取量の多い国は豊かで糖尿病罹病年齢まで生存するのに対し、経済的に遅れている国では脂肪摂取量が少なく、安価な炭水化物をエネルギー源として、しかも糖尿病罹病年齢まで生存する者は少なく、若年期に死亡する者が多いことをみているにすぎない、と理解された。このことから脂肪摂取が糖尿病の発症と関係するという説は否定された。動物に大量の脂肪を与える実験も行われたが、これによって糖尿病が現れたという報告もなかった。」 このように、佐藤章夫先生が、「高炭水化物食肯定論」の最大の根拠としておられるヒムスワースの二つの論文そのものが、医学的には既に否定されているわけです。 ヒムスワースの論文は、1935年発表です。その後、医学も疫学も、多大な進歩を遂げました。ヒムスワース論文は、75年前の過去の遺物に過ぎません。 Bに関して 佐藤先生ご自身の検査データは65才まで過去一貫して、HbA1c6.5%未満ということですので、6.4%のことは、あったと考えられます。 そうすると平均血糖値は (6.4%−1.7)×30=141mg/dl です。 また「食後に尿糖がでていると思うがまったく気にしていない。65才以後この8年は検査していない。」と述べておられます。 尿糖が陽性ということは、食後血糖値が180mg/dlを超えている可能性が極めて高く、大血管合併症を起こす可能性も否定できません。 食後高血糖が、糖尿病における動脈硬化の最大のリスク要因であることは、現在世界の医学界の共通認識ですが、佐藤先生は無視しておられ危険です。 是非、血液検査で現在のHbA1cや食後血糖値、早朝空腹時血糖値など調べていただきたいものです。加えて、頸動脈エコーや心電図も調べていただいた方が無難と思います。 なお、「米と糖尿病」を拝見して、実際に糖尿病患者さんを診察したデータが、皆無です。 健常な学生のデータとラットのデータはありますが、少なくとも本には糖尿病患者さんのデータはありません。 佐藤章夫先生は、基礎畑で予防医学がご専門であり、実際には糖尿病患者さんは、ほとんど診ておられないと思います。 糖尿病診療経験がほとんどない人が、糖尿病の本を書かれること自体が、私には不思議に思えます。 まして糖尿病患者を診察しておられない人が、安易に糖尿人に高炭水化物食を奨めることは、経験もないのに無責任であるといわれてもしかたありません。 もっとも見方を変えれば、 「糖尿病患者をほとんど診察しておられないからこそ、糖尿病臨床現場ではありえない奇妙な仮説を提唱された。」 といえるかもしれません。 佐藤章夫先生が個人的仮説(高炭水化物食肯定論)を提唱されるのはご自由と思いますが、糖尿人がそれを実践すれば、極めて危険であることだけは、指摘しておかなくてはなりません。 例えば、既に糖尿病の診断がついている人に、75g経口ブドウ糖負荷試験を実施することは、倫理的に不可とされています。 必ずや、200mg、300mgの高血糖を引き起こすことがわかっている以上は、危険を冒す意味はないということです。 糖尿人が、佐藤章夫先生の仰有る用に、総摂取カロリーの70〜80%を米から摂取すれば、75g経口ブドウ糖負荷試験と同様、かならず食後血糖値は200mg、300mgを超えてきます。 リアルタイムに血管内皮が障害され、酸化ストレスが発生し動脈硬化のリスクとなります。これは、世界中で認められている、生理学的事実です。 糖尿人のご同輩、しっかり自分自身で考えて、糖質制限食と高糖質食(高炭水化物食)のどちらに、理論的根拠・疫学的根拠・臨床データ上の根拠があるのか、判断して、自己責任で自己管理していただきたいと思います。 江部康二 (引用、ここまで) それでは、佐藤説の一部を佐藤氏のブログから紹介しよう。 (引用、ここから) 日本人は炭水化物(糖質)を制限してはならない 昨今の「糖質カット・糖質オフ・糖質ゼロ」ブームに乗って、糖尿病患者に低糖質食を薦める医師が相次いで書物を出版した。悪名高いアトキンス・ダイエットの糖尿病版である。驚いたことに、このような食事を薦める普通のお医者さんまで現れた。「人間は糖質ゼロの食事なんて続けられないよ。一時的なブームだ。そんなものはそのうちに消えてなくなる」などといって看過することはできない。ひとの命にかかわることだからだ。 「糖質制限食のすすめ」は、(1)エスキモーは、糖質を食べなかったのに、数千年も生き延びた、(2)400万年の歴史をもつ人類は、本来肉食(たんぱく質と脂肪)で、糖質を食べるようになったのは農耕が始まった1万年前からのことに過ぎない、(3)人類の本来のエネルギー源はケトン体で、糖質(ブドウ糖)は万が一の危機に備えるためのサブのエネルギー源である(真実はブドウ糖が本来のエネルギー源でケトン体は危機のエネルギー)、という極めて粗雑な根拠に基づくものである。 こんないい加減な理論に反論を加える人が今まで皆無であったのはまことに不思議だが、糖尿病の専門家がこの「糖質制限食」を完全に無視するのはそれなりの理由があってのことだろう。こんな粗末な理論に正面から反撃を加えることは専門家の沽券にかかわるし、こんなことを声高に叫ぶ人たちに反論を加えたところで彼らの宣伝材料に使われるだけだ。だから、じっと我慢して消え去るのを待つのが無難なのである。 糖質制限食を薦める人たちの主張は、人間が健康に生きるためには、今食べているすべての穀物を家畜の餌にしてその肉を食へと言っているに等しい。こんな無茶苦茶な話に穀物(米)を作っている人たちすら何の声も上げないのはまことに不思議である。 (引用、ここまで) ★江部説が正しいのか、はたまた佐藤説が正しいのか、比較検討の上、感想、意見等は「医療にクレーム」に投稿いただきたい。 |